
街を歩けば、鮮やかな映像で情報を伝えるLEDデジタルサイネージが当たり前のように設置されています。店舗のメニュー紹介から、イベントの告知、ビルの壁面広告まで、その活用シーンは無限に広がり、今やビジネスに欠かせないツールと言えるでしょう。しかし、その手軽さの裏で、導入担当者が必ず直面する、見過ごすことのできない法的な課題があります。それが**「電気用品安全法(PSE法)」**です。
「うちが導入するサイネージに、PSEマークはいるんだろうか?」 「海外製の安い製品を見つけたけど、そのまま使って大丈夫?」 「そもそも、PSEって何?」
こうした疑問は、単なる手続きの問題ではありません。万が一、法令に違反した製品を使用して火災などの事故が起きてしまえば、企業の信頼は一瞬で失墜します。実は、全てのLEDデジタルサイネージがPSE法の対象となるわけではなく、特定の条件下では「対象外」として扱われる製品も存在します。しかし、その判断基準は専門的で、一筋縄ではいきません。
本記事では、長年デジタルサイネージ業界に携わるプロの視点から、PSE法の基本から、規制の対象外となる製品の具体的なリスト、そして安全な製品を確実に選ぶための実践的なチェックポイントまで、どこよりも深く、そして分かりやすく解説していきます。この記事を最後まで読めば、あなたは自信を持って、安全かつ法令を遵守したデジタルサイネージ導入を主導できるようになるはずです。
今さら聞けない「PSE法」の本質とは?-単なるマークではない、安全へのパスポート
まず、基本の「き」であるPSE法についておさらいしましょう。PSE法(電気用品安全法)とは、電気製品による火災や感電といった事故を未然に防ぐことを目的とした、日本の法律です。国内で流通する多くの電気製品は、国が定めた厳格な安全基準をクリアし、その証明として**「PSEマーク」**を表示することが義務付けられています。
このマークは、いわば電気製品の**「安全へのパスポート」**。これがない製品は、日本国内での「販売」が法律で固く禁じられています。
重要なのは、この法律が主に規制しているのは誰か、という点です。それは、製品を消費者に届ける**「製造事業者」および「輸入事業者」**です。彼らは、製品の安全性を確保し、PSEマークを表示する責任を負っています。つまり、導入する側(ユーザー)が罰せられることは基本的にありませんが、「PSEマークのない違法な製品を知らずに使っていた」という事態は、企業のコンプライアンス意識を問われる上で、決して看過できないリスクとなります。
PSEマークには、特に厳重な管理が求められる「特定電気用品」に付けられるひし形のものと、それ以外の「特定電気用品以外の電気用品」に付けられる丸形のものの2種類があります。LEDデジタルサイネージ関連で言えば、ACアダプタなどの電源装置が、主に後者の丸形PSEマークの対象となります。
なぜ?サイネージ「本体」がPSE対象外になるカラクリ
ここで、多くの人が混乱するポイントが登場します。「LEDサイネージという電気製品なのに、なぜPSEの対象外になることがあるのか?」その答えは、PSE法が**「何に接続されるか」**を重視している点にあります。
法律が最も厳しく監視しているのは、私たちの身近にある壁のコンセント(交流100V)に直接接続される機器です。
LEDデジタルサイネージのディスプレイ部分(LEDが敷き詰められたパネル)の多くは、実は5Vや12Vといった低電圧の**直流(DC)で動作しています。しかし、コンセントから供給されるのは交流(AC)100Vの電気です。このままではサイネージは動きません。そこで、交流を直流に変換するための「電源ユニット(ACアダプタやスイッチング電源)」**が必要になります。
この**「コンセントと機器を繋ぐ電源ユニット」こそが、PSE法の主なターゲット**なのです。
この関係性は、私たちのスマートフォンと非常によく似ています。スマホ本体はバッテリー(直流)で動きますが、充電する際にはACアダプタをコンセントに差し込みます。このACアダプタには、必ずPSEマークが付いているはずです。サイネージもこれと全く同じ理屈で、電源ユニット部分の安全性が法律で問われるのです。
この「電源ユニットが主役」という原則を理解すれば、どのような製品が対象外となるのか、その線引きが自ずと見えてきます。
【保存版】PSE対象外となるLEDサイネージ製品リストと判断基準
それでは具体的に、どのような製品がPSE法の規制の外にあるのか、その具体的な種類と、プロが見るべき判断基準を詳しく見ていきましょう。
ケース1:電源コードからの解放。「バッテリー駆動型」サイネージ
カフェの店頭や展示会のブースで、配線を気にせずスタイリッシュに置かれているA看板タイプのサイネージなどが、この代表例です。
- 製品イメージ: 充電式の自立型デジタルA看板、キャスター付きポータブルディスプレイなど。
- 判断の核心: サイネージ本体に、コンセントに繋ぐためのAC電源コードが物理的に存在しないこと。内蔵バッテリーの電力だけで映像を表示できる構造のものが該当します。
- 最重要チェックポイント: このタイプの製品で絶対に見逃してはならないのが、充電に用いるACアダプタです。サイネージ本体は対象外でも、このACアダプタはコンセントに直接接続するため、紛れもなくPSE法の対象品です。納品された際に、ACアダプタにPSEマークがしっかりと刻印されているか、必ずその目で確認してください。海外製の安価な製品には、このアダプタが日本の基準を満たしていないケースが散見されるため、特に注意が必要です。
ケース2:機器の「心臓部」として組み込まれたサイネージ
製品として独立しているのではなく、何らかの大型機器や什器の「部品」としてデザイン・設計段階から組み込まれているディスプレイです。
- 製品イメージ: 最新の自動販売機に搭載された商品PRディスプレイ、業務用冷蔵ショーケースの扉、工場の生産ラインで稼働状況を示すモニター、特注の受付カウンターと一体化したディスプレイなど。
- 判断の核心: そのディスプレイ単体では動作せず、構造的に他の機器と不可分一体であること。この場合、ディスプレイは独立した「電気用品」ではなく、機器を構成する「部品」と見なされます。安全性は、その機器全体の枠組み(例えば、機器全体の電源部がPSE対象となるなど)で評価されることになります。
ケース3:パソコン周りでも活躍。「USB給電」で動く小型サイネージ
デスクの上や店舗の小さな棚で、省スペースな情報発信ツールとして利用される小型のサイネージがこれにあたります。
- 製品イメージ: 卓上サイズのインフォメーションディスプレイ、商品の価格や特徴を示す電子POPなど。
- 判断の核心: 電源供給の方法が、PCやモバイルバッテリーなどのUSBポート(直流5V)からの給電のみに限定されていること。
- 最重要チェックポイント: バッテリー型と同様、もしコンセントからUSB電源を取るための**「USB-ACアダプタ」が付属している場合、そのアダプタはPSEの対象**となります。セット品を購入する際は、アダプタ側のPSEマークの有無を必ず確認しましょう。
ケース4:プロの領域。「部品」として流通するLEDモジュール
これは主に施工業者が扱うものですが、知識として知っておくと役立ちます。屋外の大型ビジョンや、特殊な形状のディスプレイを現場で構築する際に使われる、パネル単体のことです。
- 製品イメージ: 正方形や長方形のLEDディスプレイモジュール単体。
- 判断の核心: それ自体では製品として完結しておらず、あくまで最終製品を構成するための電子「部品」として市場に流通していること。これらの部品を組み上げて一つのシステムとして機能させるためには、必ずPSE法に適合した電源ユニットや制御装置が別途必要になります。施工業者は、これらの適合品を選定し、安全なシステムを構築する責任を負います。
陥りがちな誤解と、プロが必ず守るべき鉄則
PSE法の解釈は、時にグレーゾーンも存在するため、誤った自己判断は禁物です。安全な運用のため、以下の鉄則は必ず心に留めておいてください。
- 鉄則1:「低電圧(DC駆動)だから大丈夫」という神話は信じない 「LEDは直流の低電圧で動くからPSEは関係ない」という話は、最も危険な誤解の一つです。コンセントプラグが付いており、機器の内部にAC-DC変換を行う電源基板が内蔵されている場合、その製品は「一体型の電気用品」と見なされ、全体がPSE法の対象となります。外見だけで判断するのは非常に危険です。
- 鉄則2:電源ユニットのPSEマークは、製品の「身元保証」と心得る ディスプレイ本体が対象外のケースであっても、それに電気を供給するACアダプタや電源ボックスにPSEマークがなければ、それは日本国内で販売・使用が許可されていない違法品です。特に、海外から直接製品を調達しようと検討している場合は、この電源ユニットが日本の法規制をクリアしているか、供給元に対して証拠書類を求めるなど、徹底した確認が不可欠です。
- 鉄則3:輸入事業者は「製造者」と同じ重い責任を負うと知る 海外からサイネージを輸入し、国内で転売する事業者は、法律上、国内のメーカーと全く同じ責任を負います。PSEに関する手続きを怠り、未承認の製品を販売した結果、万が一にも事故が発生すれば、刑事罰や損害賠償など、事業の存続を揺るがすほどの甚大なペナルティが科される可能性があります。
結論:安全と信頼こそが、最高のコンテンツ。PSEへの正しい理解がビジネスを守る
LEDデジタルサイネージは、間違いなく強力なコミュニケーションツールです。しかし、その輝きは、盤石な安全性の土台の上にあってこそ、真価を発揮します。
PSE法の本質を理解し、**「コンセントに直接繋がるか否か」という大きな原則に立ち返れば、自社が導入すべき製品の輪郭は自ずと見えてくるはずです。そして、どのような製品を選ぶにせよ、その心臓部である電源ユニットの安全性(PSEマークの有無)**を決して軽視しないこと。それが、自社のビジネスと顧客を、そしてブランドの信頼を守るための絶対条件です。
製品選定の際には、販売店の担当者にPSEに関する対応状況を臆せず質問し、明確な回答を得るようにしてください。少しでも曖昧な点があれば、その製品は見送る勇気も必要です。法令を遵守した正しい製品選定こそが、デジタルサイネージ活用の成功に向けた、最も確実な第一歩となるのです。

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